新聞の下の欄に載っていて気になっていた本。
笹本稜平『未踏峰』です。
読み進めていくうちに当たりの予感に満ちてきました。
この作家さんのことは全然知らなくて、
他の作品も読んだこともなければ、
どんな種類の内容を書いていらっしゃる方なのかも、
これまたなんにも知りませんでした。
でも、先入観がないほうが、
単純に小説の世界を味わえるから、
知らないことも楽しむための一つの要素だと、
勝手に思っています。
(もちろんいろんな背景を知って楽しむことも、
それはまた楽しいです。)
この本が登山の話と云うことは知っていたのですが、
登山には興味を持たないのに、
なぜか気になって仕方がなかったのです。
ある山小屋で働くことになった、
それぞれがなんらかの問題を抱えた若者三人と、
自らも問題を抱えていた山小屋の主との、
生き直りの物語。
昨年11月に、発行されたからなのか、
登場人物には、
ある出来事で会社を解雇されて、
やがて工場での派遣労働をすることになり、
未来への希望も持てない毎日を暮らしていたという、
現実にいる若者も出てきます。
登山経験などしたことのない、
ずぶの素人の三人が、
やがてヒマラヤ未踏峰に登っていく。
物語中には、
面白いことに、
私にとって馴染みのある場所や物が出てきて、
小説との距離がぐっと近くなったと、
感じるものでした。
これもまた偶然ではないのかもしれませんね。
いくつもの、
素敵な言葉がたくさんあふれていたお話でしたが、
特に惹かれた言葉が、次のようなものでした。
どんな人間だって、ただ生きているだけで意味があるんだ
笹本稜平『未踏峰』
ヒマラヤなんて登ったこともないけれど、
極限状態になったとき、
人は「生きる」ということを純粋に感じて、
そのことに喜びを感じる。
心に傷を持つ若者達が、
だんだんと再生していく様子は胸打たれるものがあります。
根性なしだから無理だけど、
ヒマラヤに登ってみたいとちょっとだけ思いました。
ちょっとだけです。
人生なんて何度だってやり直せるし、
障害だって一つの個性。
作者は、
閉塞感漂う若者へのエールを送っているのかなと、
そう思います。
それは、かつての若者たちにもあてはまるのでしょう。
それぞれの登場人物へのあったかい目線を感じて、
この方の他の作品も読んでみたいなと思っています。
いい本に出会えて、嬉しい!
今日もまた、お読みいただきまして、ありがとうございます。
いっぱいの大好きとありがとうを、こめて!